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大津地方裁判所 昭和26年(ヒ)1号 決定

主文

申請人等より招集を請求した共栄板紙株式会社の臨時株主総会の終了並びにその議決事項の執行済に至るまで被申請人等は同会社の取締役の職務を行つてはならない。

右職務執行停止期間中古林治一郎、田中三朗、田中武正をして右会社の取締役の職務を仮りに行わしめる。

右職務代行者等は第一項の臨時株主総会の招集開会及びその議決事項の執行をすることができる。

右職務代行者等は被申請人田中一朗が招集した増資払込完了報告外一件を議案とする臨時株主総会を第一項の臨時株主総会の終了するまで一時延期することができる。

理由

本件申請理由の要旨は申請人等はいずれも大津市馬場十七番地に本店を有する共栄板紙株式会社(資本金総額五十万円株式総数一万株)の株主であつてその所有株式は合計六千九百四十株である。被申請人等は昭和二十五年十月二十三日同会社の臨時株主総会において選任された取締役であるが、これより先同年五月二十五日当時の代表取締役大堀省三を議長として開催された右会社の臨時株主総会において増資の議決がなされたが、その内容として増資総額百万円新株発行数を二万株とし右二万株中六千六百株を大堀省三に、二千株を同会社従業員に、残余を現株主に割当てることとし、その余の処置方法を取締役に一任する旨の取決めがなされた。然るに被申請人等は取締役に選任されるや右株主総会の議決を無視して増資により新株二万株の中僅かに五千株のみを現株主に割当て残余の一万五千株を公募とすることとし、昭和二十五年十二月二十九日付書面をもつて申請人等に対し昭和二十六年一月十五日午後三時迄に前記割当株式の株金払込を完了すべく、もし右日時迄に払込がないときは失権する旨を通知して来ると共に公募株式の申込証を送つてきた。申請人等は翌三十日頃右書面を受取つたが余り突然のことに驚き即日払込取扱銀行なる日本勧業銀行大津支店に問合はせたところ、右公募株一万五千株は既に満株払込済なる旨の返答であつた。

そもそも被申請人等を取締役に選任したのは事業経営面における被申請人等の手腕才能に頼つて当時営業の不振にあつた会社の再建を計らんとしたものであるところ、同人等の行動は其後必ずしも期待に添はぬものがあつたので、同年十二月十八日の定時株主総会において同人等の外に古林治一郎、田中三朗、田中武正、今西儀正等を取締役に選任したところ被申請人等は右選任決議の効力を否定すると共に急遽前記の如き不当なる増資方法の決定実行に及んだのである。

以上の経過にみるときは被申請人等は会社の経営を自己の掌中にろう断せんがため前記のような不当な増資の実行方法により公募株の大部分を自己又はその腹心の者等の手に収めんとしていることは明白であつて、申請人等はかゝる不当な業務執行をなす被申請人等に会社の経営を委すに忍びず、昭和二十六年一月九日商法第二百三十七条により被申請人等の解任及び本件増資遂行の可否を議案とする臨時株主総会の招集を請求したのであるが、被申請人等が右請求に応じて総会招集の手続をなすことは殆んど期待し得ず、法定期間経過後申請人等が裁判所の許可を得てこれを招集するまでには尚一ケ月以上を要すべく、他方被申請人田中一朗は昭和二十六年二月一日に本件増資払込完了の報告総会を招集開催する旨同年一月十六日付書面をもつて通知して来たが、右報告総会が完了するにおいては被申請人等が前記増資により手中に入れた新株式の参加によりその不当なる意図を貫くに至ることは疑のないとこであり、かくては申請人等の前記株主総会招集の請求の目的は全く失はれてしまうか、少くともその遂行が著しく困難となるのであつて、かかる被申請人等の不当なる業務の執行を阻止する緊急の必要がある。よつて商法第二百七十二条に基いて被申請人等の職務執行の停止と代行者等の選任並びに右代行者等による前記報告総会の一時延期と申請人等が招集を請求した臨時株主総会の招集開会及びその議決事項の執行の許可を求むるため、本件申請に及ぶというにあつて、疎明として疎第一、二号証同第三号証の一乃至五同第四号証乃至第十二号証を提出した。

よつて按ずるに、申請人提出の各疎明方法被申請人等提出の陳述書及び右陳述書添附の公募株式申込竝びに払込調書と題する書面を綜合すれば略申請人主張のような事実を認めるに足りる。而してこのような事情の下において被申請人等が前記増資の手続を完了するときは申請人等の本件株主総会招集請求がその正当なる遂行を妨げられるに至る虞あることを推測すに難からず、右はすなわち商法第二百七十二条の「急迫なる事情」あるときに該当するものというべきである。なお被申請人田中一朗は前記申請人等の請求による臨時株主総会を一旦昭和二十六年二月二十日に招集することに定めた上、その後これと右増資払込完了報告の臨時株主総会とをそれぞれ一ケ月宛延期してその各期日を同年三月二十日及び同月一日と変更するに至つたものの如くであるが、これによつて現に本件仮処分の必要がなくなつたものとはいい得ない。

よつて申請人等の本件申請を理由ありと認め主文のとおり決定する。

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